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種類株式・属人株式を活用した対策

事業承継を考えるうえで、

・事業を子に託したいけれど、まだまだ未熟で完全に任せることはできない。

・従業員に託したいが、いまひとつ後継者としてふさわしいのかどうか悩んでいる。

・相続を考えた場合、遺留分が心配…。

このようなご不安、お悩みを抱える経営者の方は多いのではないでしょうか。これらを解決するのに有効な手段の一つとして、「種類株式」というものがあります。「種類株式」という手法を使えば、まだ経営者として未熟な子に徐々に経営を任せつつ、重大な判断は現社長が下すことができたり、従業員の中から後継者を見定めながら経営権を継承できたり、遺留分を対策しながら株式を相続させることができます。

このコラムでは、種類株式とは一体どういう株式なのかを解説のうえ、実際に事業承継にどのように活かせるのかを事例を挙げて解説します。そして最後に、種類株式と似ている「属人的株式」という手法を紹介いたします。

 

種類株式とは何か

種類株式とは、通常の株式(以下「普通株式」といいます。)とは異なる内容を定めた株式のことをいいます。普通株式の株主には、剰余金の配当を受けたり、株主総会で議決権を行使したり、株式会社が解散した際に残余財産の分配を受ける権利が認められています。

種類株式を用いれば、保有する株主に普通株式よりも多くの剰余金を配当するという内容を定めたり、普通株式と区別して、株主総会で議決権の行使ができないように定めることができます。種類株式の内容は、法律上9つの型が定められており(会社法第108条)、9つの型を組み合わせて様々な内容の株式を発行することが可能です。

簡単に言えば、普通株式を色の無い株式とすると、種類株式は無色の普通株式に色(全9色)を塗ることができ、9つの色をそれぞれ組み合わせることによって新しい色の株式を作り出すこともできる「普通とは一味違った株式」というわけです。9つの型の具体的な内容は、次のとおりです。

①配当優先(劣後)株式

②残余財産分配優先(劣後)株式

③議決権制限株式

④譲渡制限付株式

⑤取得請求権付株式

⑥取得条項付株式

⑦全部取得条項付株式

⑧拒否権付株式

⑨役員選解任権付株式

例えば、①配当優先株式と③議決権制限株式を合わせて、「配当優先議決権制限株式」といった具合に、株主総会の議決権の行使を制限する代わりに、剰余金の配当は普通株式に比べて優先して受けられるように設計することもできます。

 

事業承継対策では、特に③議決権制限株式⑧拒否権付株式の種類株式が良く使われます。

これらの種類株式がどのように事業承継に活かせるのか、ご紹介しましょう。

 

事業承継に議決権制限株式を活用する

議決権制限株式は、株主総会の議決権行使を全部又は一部制限する内容の種類株式です。何らかの理由で会社の経営には口出ししてほしくない事情等がある場合に効果的な株式といえるでしょう。例えば、遺留分に配慮しながら株式を相続させる場合に効果を発揮します。以下の事例で解説します。

 

<事例>

T株式会社の社長Aには、長男Bと次男Cがいます。社長Aとしては、自分が亡くなったあとは長男Bに会社を継いでもらいたいと思っています。

しかしながら、社長AにはT株式会社の株式以外にはほとんど財産がなく、長男BT株式会社の株式全てを相続させてしまうと、次男Cに相続させる財産が少額となってしまい、遺留分も問題や相続争いが発生する可能性があり心配です。どのように長男Bに承継させればよいでしょうか。

 

<議決権制限株式を活用して解決>

現在発行しているT株式会社の株式を100株とすると、50株を議決権制限株式に株式の内容を変更します。社長Aは、普通株式50株を長男Bに、議決権制限株式を次男Cに相続させる旨の遺言書を作成しておきます。

こうすることによって、長男Bと次男Cの相続する財産は平等となり、かつT株式会社の経営はBの判断のみで決めることができます。実務上は、議決権制限株式をもらった次男Cの心情に配慮し、Bとの均衡をとる趣旨で、Cが受け取る株式をT株式会社の配当を優先的に受けられるような配当優先譲渡制限株式とすることが多いです。

ただし、議決権制限株式をはじめとする種類株式の内容は、登記によって公開する必要があるので、第三者の目に触れてしまうことには留意してください。議決権が制限されている株式を発行していることを知られたくない場合等には別の対策を講じる必要があります。

 

事業承継に拒否権付株式を活用する

拒否権付株式とは、会社の経営方針などを株主総会や取締役会において決議する場合に、拒否権付株式のみで構成される種類株主総会の決議も必要とし、決議事項に関して、拒否権付株式の株主に事実上の拒否権をもたせる内容の株式のことをいいます。通称は、「黄金株」。この種類株式を保有する人がNOといえば、株主総会や取締役会で有効な決議ができないということになります。事業承継を考えているものの、現社長が後継者の経営をしばらくは監視したいようなときに効果が期待できる株式です。以下の事例で解説します。

<事例>

T株式会社の社長Aは、体力の衰えを感じ、そろそろ経営者として引退を考えています。

会社の経営はやはり息子Bに任せようと決めてはいますが、息子Bはまだまだ経営者としては未熟で、経営上重大な判断をさせるのは危ないと考えています。

ところが、株式を全て息子Bに譲渡してしまうと、すべての決断を息子Bがしなければなりません。どのように事業承継をしていけばよいでしょうか。

<拒否権付株式を活用して解決>

社長Aは、重大な決断は社長自身で行いたいと考えています。そこで、現在発行済の普通株式(仮に100株とします。)のうち1株の株式の内容を変更し、拒否権付株式とします。普通株式99株を息子Bに譲渡します。実行後の株主構成は次のようになります。

普通株式99株  株主:息子B

種類株式(拒否権付株式)1株 株主:社長A

こうすることにより、会社の通常の経営事項に関しては、息子Bが一人で決議することができ、重要な経営判断を迫られる事項については、社長Aが拒否権を行使すれば息子Bが一人で決議することができないので、事実上、社長AがGOサインを出さなければ重要決議ができない状態を作り出せます。

「息子Bはまだまだ経営者としては未熟で、経営上重大な判断は社長Aがしたい」と考えている社長Aのお悩みを解決できる手段といえるでしょう。

ただし、拒否権付株式をもつ社長A自身の判断能力が危ぶまれる際には、会社の経営に支障をきたす可能性がありますので、高齢の社長の場合は、時限的に内容を定めることも検討が必要です。

 

事業承継に属人的株式を活用する

属人的株式とは、定款で株主ごとに議決権や配当、残余財産の分配に関する内容について異なる定めた株式をいいます(会社法第109条第2項)。種類株式は「株式」ごとに内容が異なる株式でしたが、属人的株式は「株主」ごとに内容を差別化することができます。例えば、普通株式をもつAとBがいた場合、「Bは、保有する株式1個につき2議決権を行使できる」と定めることができます。また、種類株式とは異なり、定款の内容は登記しないので、第三者の目に触れることなく導入が可能です。

実は、拒否権付株式を利用して解決した前の事例は属人的株式によっても解決することが可能です。

<事例>

T株式会社の社長Aは、体力の衰えを感じ、そろそろ経営者として引退を考えています。

会社の経営はやはり息子Bに任せようと決めてはいますが、息子Bはまだまだ経営者としては未熟で、経営上重大な判断をさせるのは危ないと考えています。

ところが、株式を全て息子Bに譲渡してしまうと、すべての決断を息子Bがしなければなりません。どのように事業承継をしていけばよいでしょうか。

<属人的株式を活用して解決>

定款を変更し、「社長Aが保有する株式1株につき議決権は200個とする。」とします。この時点での株主構成は次のようになります。

普通株式100株(属人的株式) 株主:社長A 議決権20,000個

 

この株式99株を息子Bに譲渡します。属人的株式の効力は「株主」ごとですので、息子Bに株式を99株譲渡したとしても、息子Bの議決権は99個です。したがって、譲渡後の株式構成は次のようになります。

普通株式99株 株主:息子B 議決権99個

普通株式1株(属人的株式) 株主:社長A 議決権200個

 

こうすることにより、社長Aは全議決権の3分の2を掌握するので、会社の経営上重要な事項は社長Aの判断によらなければ決議できないという状態を作りだせます。

 

種類株式と属人的株式の発行方法

既存の株式のうちの一部を、種類株主とする場合、原則として、株主全員の同意が必要となります。これは、一部の株式が種類株式に変更されることにより、変更されない株式の株主の権利が侵害されることになるため、その株主の利益を保護するために必要な手続きです。一方、種類株式を新たに発行する手続きは、株主総会の特別決議を経て定款を変更する等をして行います。

 

属人的株式は、会社法の大原則である株主平等の原則の例外的な規定ですので、株主総会の特殊決議が必要になります(会社法第309条第4項)。また、全ての株式に譲渡制限を付した、いわゆる非公開会社(ほとんどの中小企業はこれに当てはまります。)でのみとれる手法です。

特殊決議には2種類ありますが、属人的株式は、要件が厳しい特殊決議になります。総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上がその要件です。

例えば、株主Aが75、株主Bが15株、株主Cが10株の全100株発行している会社においては、株主Aだけでは決議することはできません(「総株主の半数以上」を満たさないため。)。この場合は、AB、又はACが決議することによってはじめて有効な決議となります。

上述のとおり、種類株式も属人的株式も、株主総会の決議が必要ですので、これらの手法により事業承継を考える場合は、社長が元気で、判断能力があるうちに議決権を行使して発行する必要があるということになります。

種類株式も属人的株式も、導入をすべきかどうかを判断したり、実際に導入の手続きをするには広範かつ専門的な知識が必要となります。当社では、企業法務を専門にした部門もあり、種類株式を用いた事業承継案件の豊富な経験があるため、安心してご相談いただけます。

 

期間

種類株式を用いた事業承継対策には、会社の事情のヒアリングから対策スキームの構築の期間と、実際の種類株式発行の手続きに要する期間があります。一般的な種類株式を用いた事業承継対策には、2~3カ月程度がかかるのが通常です。