合併・会社分割
会社を設立し、その会社で事業を行っていくのが通常の会社運営ですが、その運営の中で、会社規模の拡大や事業整理のため、事業の一部分を渡したり、引き受けたり、あるいは会社まるごとを他の会社に渡したり、もらったり、ということがあります。
M&A・事業承継と呼ばれますが、その方法は法律的には複数存在します。すなわち、株式譲渡、事業譲渡、会社法上の組織再編などです。
会社の合併や分割は、事業承継の手法の一部である、会社法上の組織再編に分類されます。
組織再編には
①吸収合併 ②新設合併 ③吸収分割 ④新設分割 ⑤株式交換 ⑥株式移転
の6種類がありますが、以下ではこのうち①~④の、いわゆる「合併」と「会社分割」についてお話いたします。
合併手続きとは
合併とは「会社同士が合体すること」を言います。合併の形態には2種類あり、「吸収合併」と「新設合併」に分けられます。
吸収合併
吸収合併は「会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。」とされています(会社法第2条27号)。つまり、ある会社が他の会社と合体して1つの会社となること、を指します。吸収という字のごとく、ある会社に他の会社がそのまま飲み込まれる(=吸収される)イメージです。
新設合併
新設合併は「二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。」とされています(会社法第2条28号)。吸収合併同様、会社同士が合体することに変わりはありませんが、片方だけが他の会社に飲み込まれて消滅するわけではなく、「合体して新しく1つの会社をつくる」手続きになります。そのため、新設合併を行った会社は、どちらも消滅し、新しい会社だけが残ります。
合併手続きの特徴
吸収合併、新設合併いずれの場合も、合体する会社が保有していたものがすべて、吸収する側の会社もしくは合併により新設される会社に引き継がれます。保有していたもの、というのは、資産や負債、権利、義務、契約上の地位等すべてを指します。この中から引き継ぐものを選択することはできません。
逆に、すべてが引き継がれるので、引き継いだものの名義変更の手続き等は比較的簡易に行うことができる傾向にあります。例えば、吸収合併において、吸収された側の会社が保有していた不動産の名義変更の手続きは、吸収合併があったことが記載されている会社の登記簿謄本のみで行うことができます。
会社分割手続きとは
会社分割とは「会社の1部分を切り離すこと」を言います。1部分、と言っても、会社の○%、というような切り離しではなく、事業単位であることがほとんどです。つまり、今ある会社のある事業部門を切り離すことを指し、その切り離したものの処遇で、手続きが2つに分かれます。
吸収分割
吸収分割とは「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。」とされており(会社法第2条29号)、切り離した事業を、他の既存の会社に引き継がせることを言います。1事業部門を売却、というような話が出た場合に、吸収分割を選択するケースが多く見受けられます。
新設分割
新設分割とは「一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。」とされており(会社法第2条30号)、切り離した事業単体で1社、会社を作ることを指します。
事業譲渡との違い
1事業部門を切り離して他社に吸収させたり、新しい会社としたりする手続きは、事業譲渡と同様の構図となります。ゴールとしてはどちらの手続きも同じですが、以下のような違いがあります。
・会社分割の場合、資産や負債、権利義務等を包括して承継することができる。
事業譲渡の場合、契約となるため、資産や負債をどの程度承継するかをしっかりと相談、検討の上、判断する必要があります。
・会社分割の場合、登記手続きが必要。
事業譲渡の場合、事業を引き継いだ旨の登記は不要。
・会社分割の場合、債権者保護手続きが基本的には必要となる。
事業譲渡の場合、債務を引き継ぐ場合には民法上の債権譲渡のプロセス(債権者の承諾)を経る必要があります。
その他、税金面や労務面でも会社分割の場合、事業譲渡の場合で相違点があるので、いずれを選択するかは、様々なメリットやリスクを多角的に検討したうえでの決定とする必要があります。
手続きの概要
手続きの概要は、合併と会社分割、ではなく、吸収型組織再編と新設型組織再編によって異なります。
吸収型組織再編(吸収合併、吸収分割)
・合併契約書や分割契約書にて、手続きの概要を決定する
・事前備置書類の作成、備置
・債権者保護手続きの実施
・株主に対する通知
・効力発生日の前日までに株主総会において合併契約や分割契約の承認を得る
・効力発生日より2週間以内に合併または分割の登記申請を行う
・事後備置書類の作成、備置
新設型組織再編(新設合併・新設分割)
・合併契約書や分割計画書にて、手続きの概要を決定する
・事前備置書類の作成、備置
・債権者保護手続きの実施
・株主に対する通知
・効力発生日の前日までに株主総会において合併契約や分割計画の承認を得る
・効力発生日に合併または分割の登記申請を行う
・事後備置書類の作成、備置
なお新設分割の場合、概要によっては債権者保護手続きが不要となる場合があります。また、新設型組織再編の場合、登記が効力発生の要件となるため、効力発生日をあらかじめ決めていたとしても登記がなされなければ、効力が発生しない点に注意が必要です。
費用
手続き内容により違いはありますが、おおむね以下の通りとなります。
吸収合併:3万円
ただし、吸収合併に伴い資本金の増加がある場合は、増加する資本金額の0.15%
吸収分割:3万円
ただし、会社分割に伴い資本金の額が増加する場合、増加する資本金額の0.7%
新設合併:新設する会社の資本金額の0.15%
ただし、この金額が3万円以下となる場合は一律3万円
新設分割:新設する会社の資本金額の0.7%
ただし、この金額が3万円以下となる場合は一律3万円
なおそれぞれ上記の金額に加え、合併元の会社や分割元の会社の変更手続き分として、1社あたり3万円が加算されます。
合併や会社分割において注意する事項
合併や会社分割の手続きは、他の会社法上の手続きに比べて難易度が高く、期間も要します。
・やるべき手続きが煩雑かつ多量となる場合があること
・会社法上の手続きだけでなく、税務・会計面での確認や手続き、労務面での手続き等、注意しなければならない手続きが多量であること
といったことがその理由です。
中でも特に注意が必要な事項は以下の3点です。
債権者保護手続き
合併や会社分割手続きは、手続きを行う会社の債権者に重大な影響を及ぼす可能性もあるため、債権者異議申述手続きによって、当該組織再編に反対する場合に会社に対して異議を述べることができます。この債権者異議申述のために、合併や会社分割を行う会社は、官報にその旨を掲載し、かつ、知れている債権者がいる場合には、各別に催告をする必要があります。
債権者保護期間は、最低1ヶ月となるため、効力発生日から逆算して、債権者保護手続きを実施する必要があります。
株主との関係
合併や会社分割の手続きにおいては、合併契約や分割計画等につき、株主総会の承認を受けなければいけません(会社法783条1項、795条1項)。ただし、この承認にかかる決議は「特別決議」で行われるため、議決権の3分の2以上の賛成があれば、承認されることとなります。つまり、残り3分の1に合併契約や分割計画等に反対する株主がいたとしても、その株主の利益が保護されません。
そのため、株主に対して合併や会社分割を行う旨を通知して、当該合併や会社分割に反対する場合、その株主の保有する株式を会社側が買い取る制度を設けています。これを、反対株主の買取請求手続き、と呼びます。
なお、この株主に対する通知は、吸収型組織再編の場合、合併や会社分割の効力発生日20日前までに、新設型組織再編の場合は合併契約や分割計画の承認を行った株主総会決議より2週間以内に行う必要があるとされています。
許認可との関係
合併や会社分割を行う会社が許認可を取得している場合、別途の手続きが必要となることがあります。
許認可を取得している会社が合併や会社分割を行う場合、許認可の処遇は以下のいずれかとなります。
①合併や会社分割があった場合は、届出を行う
(例:飲食業の営業許可等)
②合併や会社分割があった場合でも、許認可の引継ぎを行うことができない
(例:化粧品製造業等)
③合併や会社分割がある場合、あらかじめ合併・会社分割に関する認可を受ける必要がある
(例:貨物運送業等)
このうち、一番注意が必要な許認可は、「③合併や会社分割がある場合、あらかじめ合併・会社分割に関する認可を受ける必要がある」ものです。
認可を受けないと合併や会社分割の効力が生じないので、まずはこの認可は必要かどうかの確認を行い、必要であれば別途認可取得の手続きを並行して行っていかなければいけません。
それに加え、もし「目的上事業者(事業目的に、実際に行う場合は許認可が必要な業種が入っているものの、その事業を行っていないため、許認可を取得していない会社)」と呼ばれる会社に該当する場合、「認可を要しない旨を証する書類」を準備する必要があります。
この「認可を受けないと合併や会社分割の効力が生じない」という内容の規定が置かれている許認可で多いのは「貨物自動車運送事業」と「旅客自動車運送事業」です。
この事業内容がそのまま事業目的として明記されていなくても、例えば「介護タクシー事業」という文言も、旅客自動車運送事業にあたる、とされたこともあります。
認可が必要なのか、認可を要しない旨の証明書が必要なのか、は事業目的を精査して判断する必要があります。