役員変更
役員変更とは
法人には、それぞれ役員が存在します。
例えば、株式会社であれば「取締役」「監査役」「会計参与」(会社法329条)、一般社団法人であれば「理事」「監事」(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律63条)という役員がいます。
これらの役員を変更するために行う登記手続を総称して【役員変更登記】といいます。
以下、役員変更に関して、日本の会社形態の中でもっとも多く、弊社にもよくご相談いただく株式会社を中心にお話させていただきます。
役員変更登記の具体的な事例
就任登記
新しく役員を追加する場合や、今の役員が辞めて交代する場合は「就任登記」を行います。流れとしては、株主総会において選任⇒選任された方の就任承諾⇒就任、となりますが、代表取締役については、株主総会以外で選定されることもあるので、注意が必要です。
辞任登記
既存の役員が自らの意思で辞める場合、辞任登記が必要となります。会社と役員の関係は、民法上の「委任」に関する規定に従っているため(会社法330条)、各当事者がいつでもその解除をすることができることとなります(民法651条)。そのため、役員は会社側の承諾なしに辞任をすることができます。
解任登記
会社側の意思で、役員を解任する場合は、「解任登記」を行います。役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができるとされています(会社法339条)。この場合も辞任と同様、役員の承諾なしに解任をすることができますが、任期途中の解任となった場合、もともと支給決定をしていた役員報酬等の支払いを請求される可能性があるため、注意が必要です。
また、解任登記を行った場合、登記事項証明書に「解任」と明記されます。金融機関や取引先によっては「解任をしなければならないようなことがあったのか…?」と、あまりいい印象を与えない可能性もありますので、もし役員との相談で「辞任」してもらえるような場合は、実際は解任であったとしても、辞任登記とする方がいいと言えます。
重任登記
役員の任期満了時に、新たに役員を選ぶ必要がありますが、これまでの役員が再度役員となる場合は「重任登記」を行うこととなります。本来は「任期満了による退任」と「就任」になりますが、登記手続き上、退任と就任が「即座に」行われたものについては「重任登記」となる、とされています。
ただし、役員として再任された場合でも、肩書が変わる場合(取締役が任期満了に伴い監査役として再任など)は、重任ではなく「退任」と「就任」になりますので、注意が必要です。
退任登記
役員の任期満了時に、再度選任されなかった場合は、「退任登記」を行う必要があります。また、再度選任された場合で、役員がその就任を承諾しなかった場合も、退任となります。
役員の任期と重任登記
役員の任期
前述の役員変更登記のうち、株式会社であれば避けては通れないのが「重任登記」です。株式会社の役員には必ず任期があり、任期が到来するごとに必ずあらためて役員を選任しなければなりません。
つまり、どの会社であってもいつかは役員任期が満了し、重任登記もしくは退任登記+就任登記を行う必要があるということです。
役員任期は次のようになっています。
①取締役
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています。(会社法第332条第1項)ただし、定款に規定したり、株主総会の決議によって決めることで、任期を短縮することができます。
さらに、非公開会社であれば、定款に規定することによって、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することもできます。(会社法第332条第2項)
②監査役
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています。(会社法第336条第1項)
さらに、取締役と同じく、非公開会社であれば、定款に規定することによって、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することもできます。(会社法第336条第2項)
なお、取締役とは異なり、定款の規定や株主総会の決議によって任期を短縮することはできません。
重任登記は株式会社であれば必須の手続き
つまり、株式会社では、役員構成に変更がなくても、定期的に役員変更登記を行う必要があります。
なお、役員変更登記は、変更があった日から2週間以内に行わなければならないとされています。(会社法第915条第1項)
2週間を過ぎてしまったからといって登記をしてもらえないということはないのですが、代表取締役に過料が課される場合があります。(会社法第976条第1項)
また、任期を伸長していたとしても、10年に1回は何らかの登記手続きを行う必要があります。もし、まったく登記を行わず12年以上が経過してしまうと、解散したものをみなされ、法務局にて解散の登記がされてしまいます。(会社法第472条第1項)
2年ごとに登記をしなければいけないのにすっかり忘れていた…という会社や、任期を10年に伸ばして安心していたら気づいたら12年経っていた…という会社のご相談をいただくこともよくあります。
役員変更登記手続き
手続きの流れ
役員変更登記の内容により異なりますが、基本的には以下のいずれかとなります。
・就任登記、再任登記、退任登記
株主総会の決議により役員の選任⇒役員の就任承諾⇒登記手続き
この場合、株主総会議事録と、役員の就任承諾書が必要となります。
また、この就任承諾書には役員の印鑑証明書(会社形態によっては住民票等で足りることもあります。)の添付と、個人実印の押印が必要となってきます。
・解任登記
株主総会の決議により役員の解任⇒登記手続き
この場合は株主総会議事録のみで足ります。
・辞任登記
役員より辞任の申し出⇒登記手続き
この場合、当該役員からの辞任届があれば手続きは可能です。
なお、役員変更登記にあたっては、誰がどのように変更となるかにより、必要書類や押印する印鑑がかなり変化してまいります。複数人が入れ替わる場合など、複雑な役員変更登記は、専門家にご相談されることをお勧めします。
手続きの期間
役員変更登記を申請すると、法務局にて審査が行われます。審査の期間は管轄法務局や混雑具合により異なりますが、だいたい1週間から10日ほどです。
その前に、必要な書類をご準備いただいたり、書類への押印をいただいたりといった準備も必要となりますので、弊所にて手続きを承る場合、ご依頼をいただいてからお手続きの完了までおおよそ1ヶ月前後の期間となります。
なお、登記申請の際に「未来の日付」での手続きはできません。そのため、手続きに1ヶ月前後かかることを踏まえて、来月交代する役員の変更登記を今申請してください、ということはできませんので、ご留意ください。
株式会社以外の会社について
ここまで、株式会社についてみてきましたが、最近よくご依頼をいただく会社形態として【合同会社】があります。
合同会社の登記記録には、「業務執行社員」と「代表社員」が記載されています。
合同会社における社員とは、出資をした人のことであり、役員のような任期はありません。
そのため、定期的に社員の変更登記をする必要はありません。
また、古くからある会社形態として【有限会社】もあります。
有限会社の役員は、株式会社と同じく「取締役」と「監査役」です。
しかし、有限会社の場合は、株式会社と異なり、役員に任期はありません。
ただし、これらの会社でも、社員や役員に変更が生じた場合には、役員変更登記が必要です。
定期的に役員変更登記をしなくていいからといって放っておいてしまうと、数年前に亡くなった人やもう連絡を取れない人が残ったままだった…というような事態に陥ってしまいます。実際に、そのようなご相談をいただくこともあります。変更の日から数年経ってから役員変更登記をすると、株式会社と同じく過料がかかってしまいますのでその点も要注意です。
ぜひこの機会に一度会社の登記簿をご確認ください。