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組織再編と事業承継

組織再編と事業承継

会社の経営を後継者に引き継ぐことを「事業承継」といいます。 

日本の社長の年齢は右肩上がりに上昇しており、特に年商1億円未満の会社では平均年齢61.1歳、70代以上の社長が28%を占めています(帝国データバンク・全国社長年齢分析2020年)。 

事業承継は経営者にとって極めて大事な問題ですが、一方で日々の業務に追われ、後回しにされがちな問題でもあります。
その結果、突然の事故によって経営者不在の状態となり、やむを得ず廃業に追い込まれる会社も後を絶ちません。
オーナー経営者にとっては、長年自分の子どものように大切に育ててきた事業を他人に任せるのは簡単なことではありません。
しかし、十分な対策をせず結果廃業となってしまっては、それまでに培ってきたノウハウを失うことになり、また従業員の生活も守れなくなってしまいます。
だからこそ、早めの段階から様々な選択肢を視野に入れ、家族・親族内に後継者がいないのであれば、外部の第三者にMAする可能性も検討していくことが大切です。

最近では、中小企業のMAにおいても単に会社の株式を第三者に譲渡するだけではなく、組織再編を活用する事例が増えてきました。

組織再編とは、企業の組織を改めることで資産の有効活用や経営の円滑化を図る行為のことをいい、主なものとして、会社法上の合併・会社分割・株式交換・株式移転があてはまります。

本コラムでは、組織再編の中でも会社分割を活用した事業承継(MA)の具体的な事例をみていきましょう。

 

具体的な事例

A株式会社は、食品・雑貨の輸出入を主な事業として営んでいました。また、自社ビルの他に複数の不動産を会社で所有し、テナントから入ってくる賃料も大切な収入源となっていました。
A株式会社の100%株主であるXさんは現在70歳。2人の子供がいますがそれぞれ別の企業に勤めており、食品等の輸出入の仕事を継ぐ予定はありません。
一方で、現在会社で保有している不動産に関しては、これまでどおり自社で管理し安定した収入を得ていきたいという希望がありました。
そこでXさんは、食品・雑貨の輸出入業のみを第三者にMAにより譲渡することとなりました。
 

こんなときは、会社分割を活用することでスムーズに事業承継を進めることができます。
具体的には、次のような流れになります。

(1)A株式会社の事業のうち、食品等の輸出入業は自社に残し、不動産賃貸業を新設分割によって切り出します。

ここで、新設分割によって設立した会社をB株式会社とします。

(2)新設分割の対価としてB株式会社から発行された株式を、A株式会社の株主であるXさんに交付します。

※(2)のような形で行われる会社分割は「分割型分割」と呼ばれています。分割型分割を行うことによって、A株式会社、B株式会社はどちらもXさんが100%株式を保有する兄弟会社となります。

(3)A株式会社のすべての株式を食料等の輸出入業を引き継いでくれる第三者に売却します。これで、当該事業のMAは完了です。

 

なぜ、継続して営む予定の不動産賃貸業を自社から切り出したのでしょうか?それは、適格分割の要件の一つ、「株式継続保有要件」を満たすためです。

株式継続保有要件とは、会社分割後も分割によって新設された会社の株式を、引き続き株主が保有すると見込まれていること。を指します。つまり、今回の例で言うと会社分割後もB株式会社を継続して保有することが必要となります。

平成29年の税制改正により、分割元の会社の株式継続保有要件は外されたため、会社分割直後にA株式会社の株式を第三者に売却したとしても、適格分割の成否に影響はしません。

 

適格分割とは、株式継続保有要件を含む一定の定められた要件に該当する会社分割のことです。

法人税法上、分割会社の資産及び負債が承継されるときは、原則として時価による移転があったものとして、分割会社の譲渡損益に対して課税されてしまいます。ただし、適格分割に該当すると、簿価で承継されたものとみなされるため、分割会社の税務面・税金面では非常に有利となります。

 

対策までの期間

新設分割の手続きとして、主なものは次のとおりです。 

①取締役決定による新設分割の概要の決定

②新設分割計画の作成

③債権者保護手続き

新設分割を実施する会社(=分割会社)の知れたる債権者に対し、官報に「分割する事業」「事業を承継する新設会社の商号・本店」、そして「分割会社の貸借対照表等」を1か月間公告する必要があります。

官報に新設分割公告を掲載する場合、最長で申込から掲載まで2週間ほどかかるため、この期間も考慮してスケジュールを組む必要があります。

また、上記の官報公告と併せて、会社が把握している債権者に対する個別催告、または自社のHPや日刊新聞紙での公告掲載も行います。

④株主総会での特別決議

⑤労働契約承継法による労働者保護手続き

分割する事業に主に従事する労働者、また新設会社に労働契約が承継される労働者には、④の株主総会が開催される2週間前の前日までに、法定の事項を通知しなければなりません。

⑥新設分割する旨の登記の申請

登記の申請日が、新設分割の効力発生日となります。

新設分割の決定から登記申請まで、最低でも2か月は見ておく必要があるでしょう。

 

終わりに

組織再編を活用することによって、経営者の希望にあった柔軟な事業承継を叶えることができ、またやり方次第では税制面でも有利なMAを実現することが可能となります。

一方で、組織再編を取り入れる際には、1か月間の債権者保護手続きを視野に入れたスケジューリング、そして適格組織再編の要件を満たすために様々な角度からの慎重な検討も必要となります。ぜひ、この道に詳しい税務・法務の専門家と相談しながら進めていくことをお勧めいたします。